Workshop Comic Review

ANNEX VOL2.

 

Winter Special 2002特別企画PART2

あやぼー ご推薦・読むべき11人

 

さてお約束通りPart2ではPart1でご紹介しきれなかった漫画家さん11人の作品を集めてみました。こちらでご紹介している作品、殆どは文庫もしくは単行本で見つかると思いますが、いくつか手に入らないものもあるかもしれません。ま、そういうのは、オークションや古書店巡りなどで見つける楽しみにして頂きたいですね。古い作品も多いんですが、それだけに時間に侵食されない魅力があるものばかりだと思います。ある年齢以上の方には物凄く懐かしい作品、でも初めて知ったという方には「こんなのあったの?」という新鮮な驚きをもたらしてくれるものも少なくないんじゃないでしょうか。ここでは各先生の代表作をほんの一部取り上げているだけですので、これをきっかけにして是非他の作品にも手を伸ばして頂きたいと思います。

 

 

T森川久美先生

最近は描かれる絵の雰囲気がすっかり変わってしまわれた森川先生ですが、デヴュー当初から絵画的で実に個性的な画風は特筆さるべき魅力でした。カラーも秀逸で、特にこの「Shang-hai1945」の装丁に用いられている作品の色使いは、あまりにも美しい。

少女漫画としては珍しくイタリアや中国を舞台にされることも多く、歴史を題材に取った重めのストーリーや、どことなく頽廃的なお話と独特の画風が相乗して、森川先生ならではの世界を構築しておられます。「青色廃園」は初の単行本で、表題作の他にデヴュー作「特別休暇」なども収録されており、森川久美の原点とも言える作品集でしょう。

★青色廃園★

パリで、死後注目を集める画家ロォラン。空前の高値を呼ぶその作品の中でも最も人気を集めるのが愛娘イヴァを描いたシリーズだった。生前は青色廃園と名付けた古い屋敷にイヴァと二人きりで住み、決して絵を売ろうとしなかった変わり者のロォランだが、死後その作品を一手に扱う画商マダム・テュレルは正当な継承者であるイヴァから不正な手段で絵を取り上げていたのだ。テュレルのもとに出入りするロォランの贋作画家アントワーヌの正体、そしてイヴァの行方は?

この作品集に続く、「ヴェネチア風琴」、シェイクスピアを扱った「十二夜」など、初期作品にも秀逸なものが多々あります。

 

★Shang-hai1945★

日中戦争から第2次世界大戦へ、揺れ動く動乱の時代、上海を舞台に繰り広げられる物語。新聞記者・本郷義明はかつて戦争を回避するため特務機関「54号」を率いて防諜活動に従事した過去を持つが、彼らの必死の努力にも関わらず日中戦争勃発。失意の中、2年の南方生活を終えて上海に戻った彼を待ち受けていたものは、第十三軍司令部からの軍需物資調達に関する協力要請と、彼を愛しながらも延安に去った蔡文姫との再会だった...。

戦争という悲惨な状況の中で生き抜く人々を、日本人、中国人双方の観点から捉え、見事な人間ドラマとして描き上げられています。これに先立って「蘇州夜曲」、「南京ロードに花吹雪」などのシリーズ作品もあり、少女漫画の域を越えたそのストーリーは是非合わせてお読み頂きたい名作です。

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U坂田靖子先生

コメディ、メルヘン、ミステリー、そしてシリアスなお話と、多分野に渡って独特の世界を展開して来られた坂田靖子先生。「バジル氏の優雅な生活」は、その代表作としてあまりにも有名な作品ではないでしょうか。特に頽廃的なテーマを描かせたら、「アモンとアスラエール」、「パエトーン」、「水の片鱗」、「孔雀の庭」など、鮮烈な印象を残す名作はキリがありませんが、「バジル氏の優雅な生活」は、どこか頽廃的でありながらコメディとしても楽しめ、バジル氏のキャラクターがまた秀逸。単行本にして9巻を数える大人気作品でした。

★バジル氏の優雅な生活★

19世紀、栄華を極める大英帝国華やかなりし時代のロンドン社交界。中でもプレイボーイながら、ジェントルマンで心優しいバジル・ウォーレン卿は、ご婦人方にことのほか人気の伊達男です。ある日、帰宅途中に怪しげな男たちに追われる浮浪児を助けたバジル氏は、その子がフランスから売られて来た身寄りのない子供だと知り、引き取ることに決めます。後にこのルイくん、バジル氏のお気に入りの召使いになってゆくのですが...。お堅い議員のウォールワース、変わり者の公爵令嬢ビクトリア、貧乏画家のハリーなど、バジル氏と素敵な友人たちが繰り広げる物語は、ほのぼのとしていて時々コメディ、時々シリアス。心あたたまる洒脱なストーリーは、きっと貴方をシアワセにしてくれますよ。

 

★マーガレットとご主人の底抜け珍道中★

坂田先生は、どちらかと言えば長編より短編の連作がお好きなようですが、これもそういった連作シリーズのひとつ。ごくごく普通の家庭の、ごくごく普通の主婦マーガレット奥さんは、けれども今だにどこか少女のような純粋さを残したステキな女性です。ご主人は、そんなマーガレット奥さんが大好き。けれども、読んでいた本からネス湖のネッシーに興味を持って、はるばる見物に出かけて行ってしまったり、突然エスキモーに会うと言って南極(?)に出発したりと、無邪気な奥さんの行動に、ご主人は振り回されぎみ。それでもなぜかマーガレット奥さんと一緒だとご主人は幸せになってしまうのです。

この作品を読んでいると、坂田先生の短編のひとつ「奥様・お手をどうぞ」というお話を思い出してしまいます。こちらに登場する奥様は上流階級の貴婦人なんですが、どこかマーガレット奥さんとよく似ていて調子っぱずれ。港で結婚サギ師に声をかけられ、ホイホイついて行くかと思うと自宅に招き、サギ師はカモと思って喜ぶんですが、実はこの奥様、立派にご亭主持ち。悪気は全くなくって単に無邪気なだけ、という笑えるコメディです。是非合わせて探してみて下さいね。

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3.宮脇明子先生

宮脇先生のデヴュー作「あなたはだあれ」は、最近単行本にも収録されていたように記憶していますが、実はそれが雑誌に発表された時から存じ上げているものですから、特に思い入れのある漫画家さんなんです。デヴュー作においても絵の上手さは別格で、その後の活躍を楽しみにしていたんですが、一時創作活動を休止されていたこともあり後にこの「ヤヌスの鏡」を書店で見つけた時には大喜びしたものでした。テレビでも放映され大変話題になった作品なので、覚えておられる方も多いでしょう。これは結構暗いストーリーで、他に恐怖モノも数多く描かれていますが、最近は笑えるコメディも沢山手がけてらっしゃいますよ。

★ヤヌスの鏡★

私生児として生まれ、自殺した母親の代わりに厳しい祖母に育てられた裕美(ヒロミ)は、内気でマジメな高校生。しかし回りの誰もがそう信じる彼女の抑圧されたキャラクターの裏には、正反対の華やかで奔放な性質を持つもうひとりの少女・裕美(ユミ)がいた。ヒロミ自身気付かないうちに、夜な夜な遊び回るユミの行動は、いつしかヒロミの現実をも抜き差しならない事態に追い込んでゆくが...。

何より魅力的なのがこのユミのキャラクター、それはどんな女の子の中にもある憧れの少女像かもしれませんね。

 

 

 

 

W赤石路代先生

こちらも確かテレビ化されたんじゃないかと思いますが、このページでご紹介している中では、ぐっと新しい作品でしょう。赤石先生と言えば、アニメ化された「アルペン・ローゼ」、このP.A.の後に続く「サイレント・アイ」など、面白い作品か沢山ありますが、やはりP.A.は代表作中の代表作ではないでしょうか。

★P.A.* プライヴェート・アクトレス★

日本を代表する大女優・永沢さゆりの私生児として生まれた小早川志緒は、母親譲りの美貌と天才的な演技力をもつ美少女。けれども愛する母親のスキャンダルを恐れて、自ら女優への道を歩むのも断念し、日陰の存在であることに甘んじています。しかし何よりも演じることが好きな彼女は、ちょっとしたキッカケから、現実の中で依頼された役を演じるプライウェート・アクトレスという仕事があることを知り、アルバイトとして始めるのですが...。

P.A.の仕事を通じて、様々な人の悲しみや苦しみに触れながら成長して行く志緒が、最後には母親をも凌ぐ大女優になってゆくという物語。美少女ながら活発で負けん気の強い志緒のキャラクターが、とっても魅力的です。

 

 

 

X河あきら先生

河先生と言えば、最近では「ご町内のミナさん!」が大ヒットしていると伺いますが、私の印象に特に残っているのがこの作品。主人公ワタルくんのキャラって読んでて結構「このガキは!!」という気分にさせられるんですが、それが案外リアルな「中学生」像なのかもしれません。

★いらかの波★

両親を早くに失い孤児院で育ったワタルくんは、活発で元気すぎるのが問題の中学生。けれども亡くなった大工の父親の夢だった「赤い瓦屋根」の家をいつか自分で建てたいという大望も密かに抱いていたりします。そんなワタルくん、優しい両親に養子に迎えられるのですが、新しいお父さんは大企業に勤めていて、いずれは彼を自分の会社に入れ親子二代で同じ仕事をという心づもり。大工になりたいワタルくんと衝突して...。

ワタルくんとそれを取巻く人たちの、何の変哲もない日常がほのぼのと心あたたまるストーリー。最近のヒット作にも通じるものがあると思いますよ。

 

 

 

Yせがわ真子先生

少女漫画と言っても80年代以降、その題材は多岐に渡りますが、もともとは夢いっぱいの可愛いらしい世界こそがその王道。この「花詩集」は25年も前の作品とは言え、現代の殺伐とした日常が忘れ去ってしまった何かとても暖かいモノを全編にちりばめた、せがわ真子先生の代表作です。

★花詩集★

小さな花屋を営むおっとりした咲子さんの所に、ある日突然転がり込んで来た姪のくるみちゃんと黒ねこの「ママ」。両親を亡くして叔父の薫さんに引き取られたくるみちゃんだったのですが、海外研修のチャンスを彼女のために棒に振ろうとしている彼を見て、小さな心を痛め「行かせてあげたい」と家出して来てしまったのでした。薫さんはすぐにも連れ帰ろうとするのですが、くるみちゃんの気持ちに心打たれた咲子さんは、彼の留守中、彼女をあずかろうと決心して...。

おてんばながら純真無垢なくるみちゃんと、おっとりした咲子さんを取巻く人たちの様々な想いを、章ごとの花に寄せてつづったエピソード集。元来、少女漫画とは、こういったものだったよなあ、としみじみ懐かしい名作であります。

 

 

 

Z.高口里純先生

「花のあすか組」で大人気を博した高口先生ですが、それよりずっと以前に遡る代表作と言えば、あやぼー的には、どうしてもこの「伯爵と呼ばれた男」を挙げざるをえません。こちらは一転して少女漫画の域を越え、独特の雰囲気を持った忘れ難い作品でした。

★伯爵と呼ばれた男★

1920年代から30年代へ、サイレントからトーキーへ発展を遂げようとするハリウッド・ティンゼルタウン。華やかなる映画の都に棲息する映画人の中に、伯爵と呼ばれる男がいた。いい男なのに何故かエキストラ専門の彼・オスカーは、実はギャングで麻薬の売人。ニューヨークに生まれ、夢を語る男ロイドを追いかけてハリウッドにやって来た彼の回りには、何故か不穏な死が相次いで...。

一見ひょうきんで女性に弱い伯爵の、時々垣間見せる素顔がなかなか優雅でステキなのです。

 

 

 

[竹宮恵子先生

やっぱり竹宮恵子先生と言えば、これ「風と木の詩」を紹介するしかないでしょう。このころの作品で、もうひとつ思い出すのは「変奏曲」、ジルベール・コクトーと並んでエドアルド・ソルティも印象に残るキャラクターでした。どちらかと言えば、私はエドアルドの方が好きだったんですけどね。

現在では一大ブームを巻き起こした名作として、あまりに有名ですが、「風と木の詩」以前にはこういった種類の作品が絶無だったためか、発表に漕ぎ着けるまでが大変だったと聞き及びます。

★風と木の詩★

子爵家令息とジプシーのココット(高級娼婦)との爵位を賭けた恋。あまりにも純粋に愛し合った二人は、パリでのしがらみを逃れてアルプスの片田舎に逃亡し、一児をもうけます。それが後のセルジュ・バトゥール子爵、誠実で純粋な父親の血をそのまま引いた彼は、結核で亡くなった両親の代りに、息子を失って長く失意の中にあった祖父母に溺愛されて育ちます。母親ゆずりの黒い肌と黒髪は貴族社会の中にあって蔑視を向けられることもしばしばなのですが、やはり両親の血か、曲げられることなく真直ぐすぎるくらいの少年に成長してゆくのでした。一方でフランスに名だたる富豪、コクトー家の嫡子として生まれながら、母親の不義の子であったために日陰に追いやられ、叔父(実は父親)に、かなり歪んだ育てられ方をしたのがジルベールです。その神話から抜け出たようと表現して余りある美貌は、幼少の頃から美に敏感な芸術家たちの崇拝の的でもありましたが、しかし同時にそれが彼の最大の不幸であり、また運命でもあったのです。両親の限りない愛と誠実を注がれて育ったセルジュと、愛に飢えたジルベールとの邂逅、それが運命的な悲劇の序章となるのでした。

この作品を単に、いわゆる「少年愛ブーム」の草分け的存在として記憶しておられる方も多いでしょうが、なかなかどうしてそのテーマ、プロット、ストーリー展開と、その程度の評価では決して終わらせられないものがあります。今時の「美の本質」について何も分かっていないような駄作に費やす時間があったら、是非その原点に還って読んで頂きたい名作中の名作と僭越ながら言い切らせておいて頂きましょう。

 

★変奏曲★

音楽の都ウィーン、未来の芸術家を目指す若者たちが集まる名門・ヴィレンツ音楽院に二人の天才が在った。一人は幼少の頃からその音楽的才能を見出され、今ではオーストリアのプリンスとまで称される大ピアニスト・ウォルフガング・リヒター、何よりも音楽を愛するもの静かなウォルフはしかし心臓に欠陥を抱え、明日をも知れない中で周囲の人たちに見守られながら一日一日を懸命に生きる楽聖でした。もう一人はスペイン貴族の名門に生まれながら、妾腹の子であったために周囲の冷たい視線の中で育ち、それゆえに貴族を嫌い密かに革命に手を染める情熱家エドアルド・ソルティ。未だ彼自身もそのヴァイオリニストとしての類稀な天分を知らず、一時は音楽を捨ててスペイン革命に身を投じるエドアルドでしたが、革命の失敗によって迷いを振り切り、ヴィレンツに戻ってその才能をフルに発揮し始めます。始めはウォルフをその才能の大きさへの畏怖ゆえに「体制派的いい子ちゃん」と批判するエドアルドですが、世の中にひた隠しにされているウォルフの不治の病、そして彼の音楽に対する死を超えた愛情を知るに至って、不変の友情を誓い数々の音楽活動を共にしてゆくのでした。

エドアルドは後にウォルフの死後、彼の妹アネットと結婚して男の子をもうけますが、お話は更にその子供たちに引き継がれて続いてゆきます。現在、私の知る限り単行本全3巻で完結していますが、いつかエドアルドの子息、ニーノ・アレクシスを主人公にしたお話が読めるのではないかと、密かに期待しているファンは私だけではないと思いますよ。

 

 

 

\槙村さとる先生

槙村さとる先生は、殆どデヴュー作と言っていいような初期作品から、よく読ませて頂いていました。めちゃ懐かしい作品に「ディスコ・ベイビー」なんてのがありましたね。その後、初の長編が「愛のアランフェス」、お得意のフィギュア・スケートものだったんじゃないでしょうか。短編にも長編にも面白いものが沢山ありますが、ココはやはりテレビ化もされたこの「おいしい関係」をご紹介しておきましょう。フレンチ大好きのあやぼーには、それだけでも興味の持てる作品だったんですが、主人公の百恵ちゃんや織田さんの料理に対する思い入れが、なかなか深くて感動的でした。

★おいしい関係★

両親に愛されて育ち、幼い頃からグルメのパパに連れられて世界中の美味しいもの巡りに親しんで来た百恵ちゃんは深窓のご令嬢で、さすがに食いしんぼ。けれどもある日突然のパパの死と会社の倒産で、不幸のどん底に落とされてしまいます。同じくお嬢さん育ちで働いたこともない無邪気なママを支えて一時は途方に暮れる百恵ちゃんですが、泣きたい気持ちでたまたま飛び込んだレストランで出会ったコンソメ・スープ、そのあまりに見事な芸術とも言うべき味わいに、遠い日、両親とともに訪れたレストラン・グランブルーでの体験に思いを馳せます。そしてその日から、百恵ちゃんのシェフを目指す挑戦が始まったのでした。

フランス料理は芸術であるとよく言われますが、それはあまたの他の芸術形態と同じように、料理を通して皿の上に作り手の思い入れ=愛情を表現するからではないでしょうか。フレンチと言えば、マスコミではその外面の華やかさだけが取り沙汰されがちですが、その中にあってしっかりと料理と愛という本質を踏まえたストーリー展開が爽やかな感動を呼ぶ名作です。

 

 

 

]華不魅先生

<※2011.11.13追記/"Glamorous Gossip"は2010年より、新書館Webウィングスにて再開され、2010年10月に第5巻が出版される共に、絶版になっていた1〜4巻も新装で復刻されています。近況については、華不魅さんのサイトでご確認下さい。以下は、2003年当時のレヴューです。>

華不魅(かずみ)先生は、ここでご紹介している中では唯一90年代にデヴューされた方ではないかと思います。つまり90年代、私の目に止まった数少ない漫画家さんのお一人だってことですね。

実はこの「グラマラス・ゴシップ」という作品、新書館のWINGSで第1話を読んだ時から、物凄いファンになってしまいまして、その後4巻まで出たところで何年も続きが止まってしまっているのが残念でなりません。この後、「一天四海」や「夜行雲」といった面白い作品がありますが、やはり絶対に、この「G2」は完成させて頂かなくてはファンとしておさまりませんね。新書館からは単行本が出続けているので、いつかは続きが読めると期待して待ってはいるのですが...。

★Glamorous Gossip★

舞台は電脳が発展を遂げてサイボーグ、アンドロイド入り乱れ、すっかり区別がつかなくなっている遥かな未来。スクラップ置き場から拾われたエンヤと、拾ったエドベリは、ケチな賞金稼ぎをやりながら混沌の6月都市で結構楽しくやってる二人組。けれども乱暴者のエンヤを相棒として可愛がってくれる「いいヤツ」のはずのエドベリは、かつて犯罪集団コンデナートに身を置いたことがあり、6月都市一のハッカー・ウミタとして怖れられた過去があった。そればかりではなく、彼は今や全世界に君臨するE.E. (Electric ERIE = エレクトリック・エリィ)の創設者、ナシル・エリィのクローン体で、人類を創生し後に人類そのものの存在を脅かすであろうE.E. (Eternal Existence = イターナル・イグジスタンス)を牽制するため、ナシル自身が残したプログラムの一部でもあったのだ。時を遡ること54年前、エリィ鉱産の正当な後継者でありながら一族に全ての権利を奪われて開発前の月に追いやられたナシル、その彼がそこで原初の精神生命体と交わした密約は彼を後にE.E.の総帥として君臨させたが、その記憶と真意は今、ナシル自身が理想とした擬似人格「エドベリ」の中に甦って...。

はっきり言ってこんな短いスペースでこの作品の壮大な魅力を語り切ることなんか、全く無謀。それは読んで頂けば分かります。軸となるストーリー、エンヤやエドベリのキャラクターが独特なのは言うまでもないんですが、未だたった4巻しか出てないとは思えないほど、その概念的背景と取り入れられている要素が深く広い。独自の概念世界、そしてこれまでのSFにない背景設定が構築されている点でも、他に類を見ないと言える作品です。SFの詩的かつ記号論的な側面が存分に楽しめると同時に、もちろん漫画としてのエンタテイメント性も十分に兼ね備えた秀作、あやぼー的にはもー、絶賛しまくりたい作品なんで、是非とも完結まで持っていって頂きたいと切に願ってやみません。

 

 

聖パンプキンの呪文 / 白雪姫幻想 

11人というハンパな数になってしまったのは、最後にやはりこの方をご紹介しておきたいと思ったから...。漫画家と言うよりもイラストレーター、イラストレーターと言うよりも既に画家と言った方が正しいんじゃないかと思いますが、内田善美先生です。

もちろんストーリー漫画の方にもステキな作品が沢山ありますが、今回ご紹介しているのは画集としてまとめられたもので、掲載作品にはカラーも多く、その魅力が存分に楽しめます。「聖パンプキンの呪文」は1978年・新書館より、「白雪姫幻想」は1979年・サンリオより初版発行されたもので、現在このままの状態で手に入るかどうかは分かりませんが、私のコレクションの中でも最も大事に保存して来ているものです。

ご覧頂いているだけでもお分かりになると思いますが、カイ・ニールセン、アーサー・ラッカムなどの挿絵作品との出会いが、後の創作活動に大きく影響していると仰るだけあって、その作品の完全主義的な美しさは、少なくとも少女漫画界で他に類を見ないものではないでしょうか。書店で見かけられることがあったら、どの作品でも是非手にとって見て頂きたい。きっと皆さん、その神秘的な世界に魅了されることは間違いないと思いますよ。

 

私の蔵書コレクションの中でも漫画史に残る名作ばかりを集め、2部に分けてお届けしてまいりましたが如何でしたでしょうか。特にPart2でご紹介した作品は、発表後、驚くべきことに15年〜20年以上経っているものも少なくありません。それでも不変の魅力が今も色あせない作品ばかり。ご紹介したような優れた漫画家さんが、この他にも数多く輩出されればこそ、あの空前の漫画ブームも在り得たということなのでしょう。各先生方の今後の創作活動にも、大いに期待を寄せたいところです。皆さんも、まだご覧になったことのない作品がありましたら、是非目を通してみて下さいね。

※各作品の著作権者の皆さまには、削除のご希望がございましたら企画者のあやぼーまでメールにてご連絡下さいませ。即刻対応させて頂きます。

2003.4.13.-4.21.

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