第1

Western Moral Philosophy(西洋倫理哲学)という怪物についての研究

***反戦歌だったはずのフォーク・ソングを日本人は「22歳の別れ」や「神田川」にしてしまった、という前科がある***

「BAM SALUTE」における天使と悪魔の考察

 

ロンドンのスティーヴ・ライトが以前AoFに、グリーンが読んだと言っていた「Life Without Principles」について投稿していたのですが、その中にこんな一節があります。

'Life Without Principles' is primarily concerned with Western moral philosophy. So it's possible, at least, that Green has become moreSo it's possible, at least, that Green has become more pre-occupied with moral and ethical problems. Certainly, 'Anomie & Bonhomie' carries allusions to such concerns - I'd point to the recent discussions here about the lyric "Brushed With Oil, Dusted With Powder" as, er... evidence.

「“ライフ・ウイズアウト・ブリンシブルズ”は主として西洋倫理哲学に言及している。そこで少なくとも考えうることは、グリーンは倫理、道徳的な問題に悩まされているのではないか、ということだ。実際、"アノミー&ボノミー"には、さりげなくそういったことに言及する表現も含まれいる。最近のここでの"Brushed With Oil, Dusted With Powder"の歌詞に関する討論を、その証明として指摘したい。」

ま、グリーンのパンク時代の友人で、ということはつまり彼がまだ本心を口に出してた頃に近くで話を聞いてただけはある、というか、さすがという他はないですね。序章でも述べたように、この"Brushed With Oil, Dusted With Powder"は、まさしくエイブラハム、つまり聖書が理想とする人間像を否定する位置に、グリーンがいるということを表現した、最も理解しやすい歌詞のひとつと言えるでしょう。

日本は一部を除いてキリスト教の影響が全くと言っていいほどない国ですから、ヨーロッパ文化圏にカスミの如くかかっている、このWestern Moral Philosophyというバケモノが、一般に透明化してしまいます。それは西洋文化圏において絶対的に正しいもの、その象徴がバチカンであり、ローマ法王なのです。どれほど大きい存在か、そう言われてみれば、わかると思いませんか。そして、その究極の理想像こそが、マザー・テレサだと言えるでしょう。

確かに日本にも倫理、道徳という概念はあります。けれども、西洋文化圏のそれが最も特殊なのは、それが「愛」という概念を含む所です。日本人は「愛」と言われると、一般的かつ自動的に男女間の恋愛関係を連想してしまい、「愛」という言葉が一つの概念を象徴している、などと考えることが、まず出来ません。

ひとつの例として、フォーク・ソングがあります。

70年代のフォーク・ソング、ベトナム戦争、ヒッピー文化、そして彼らの掲げた「LOVE & PEACE」というスローガンは、相互に密接な関係のあるものでした。つまりフォーク・ソングは、反戦歌と言われたように、戦争の現実を直視すると同時にその愚かさに目を向け、平和の尊さ、そして人種、民族の違いを超えて、相互を思いやる愛の大切さを歌おうとしたものだったのです。

ところが、日本人の作った「フォーク・ソング」はどうだったでしょうか。「学生街の喫茶店」、「神田川」、「22歳の別れ」等々のように、一部を除いて、ものの見事に恋愛ソングになってしまいました。ラヴ・ソングではなく単なる恋愛ソング、つまり歌謡曲です。

確かにそれらの曲が歌謡曲として良く出来たものであることは認めます。けれども、それならば歌謡曲と呼べばいい。問題は、これを従来の歌謡曲と区別して何の疑問も無く「フォーク・ソング」と呼んでしまっていることです。

そこにはもう、世界や歴史などの大きな視野は存在せず、戦禍もそれに伴う叫喚や怒りも存在せず、ちまちまと目の前3センチしか見えていない、どうしようもなく視野の狭い太平楽な庶民生活があるだけだというのに、です。

このことから言っても、音だけ聴いてわかったつもりになるのがどれほど危険か、音が似ているというだけで、同じ物と分類することがどれほど危険か少しはわかって頂けるでしょうか。おそらく、この時にもどんな歌詞対訳が我が物顔で出回っていたか想像に難くありませんが、結果として、日本人はフォーク・ソングから何も学ぶことが出来なかったのです。

もちろんこれはフォークばかりではなく、ロックやグループサウンズのような言葉にも同じことが言えるでしょう。音楽ばかりではなく、グルメ、ブランドなど、一般的な日本人がその本質を何も理解しないで、勝手な、しかも実に低レベルの使い方をしている言葉はいくらでもあります。もちろん彼らはただもともとの意味を知らないだけなのですが、その無責任な無理解が明治維新以来100年以上に渡って蓄積し、なおかつマスコミによってその勝手な使い方が当然のこととして定着させられてしまうと、結果的に「日本人は芸術に対する理解がない」と国際社会でバカにされてしまうほど、対象となる文化の本質を歪め、その理解を阻む結果となってしまいます。そしてそれは歴史的に考えると、アジア諸外国の啓蒙に関するマイナス効果の波及をも生み出すという、おそらく大半の方にはそれがどれほど大きな問題であるか認識できるだけの視野はないと思いますが、まことに憂えるべき事態を生み出してしまうのです。

さて、その話は元来の歌詞解釈というテーマからは大きくはずれますので話を戻しますが、"Brushed With Oil, Dusted With Powder"の他にも、このテの「倫理、道徳的な問題に悩まされている」ことを表現した歌詞はたくさんあります。なぜ彼が道徳的堕落に陥っているのかにも、もちろんちゃんと筋道だった理由があるのですが、それは後の章で述べるとして、とりあえず他の歌詞にも、どのように歌いこまれているか、その例を見てみることから始めましょう。

“Provision”の歌詞は他に比べて比較的分かりやすいものが多いのですが、その中にもこれに類するものがあります。

顕著なのが“BAM SALUTE”。ここには、そのものズバリでこんな表現があります。

“all the right and reason now are out of reach

They ran away with beauty baby-out to Bop-A-Re-Bop beach”

「すべての正義も常識も、今ではもう手が届かない

美徳と一緒にBop-A-Re-Bopの岸の彼方へ逃げて行ってしまった」

“in the heart of the beast

There's a beauty that was once upon a time-and long ago”

「この野獣の心にも

かつては美徳というものが住んでたもんさ-大昔だけどね」

“all the just and proper you've been waiting for

Sailed away with virtue baby-out to Bop-A-Re-Bop shore”

「きみが待っていたあらゆる正当性も妥当さも

美徳と一緒にBop-A-Re-Bopの岸の彼方へ駆け去ってしまった」

この中で、right, reason, beauty, just, proper, virtueはすべて概念を表している単語です。つまり全ての良いもの、美しいとされるもの、これらがもう今ではここにないことを表現しているわけです。かつてはあった美徳が今は彼の心の中にないということですね。beautyは上の例で2ヶ所に出てきますが、どちらも、またこの作品を通じて同じものを指します。

そして、この曲にはもう一つ、こういった歌詞を読み解く上で重要な要素が入っています。

そもそもこの曲に歌われている、

“you gotta get close

To the money and the madness that are mine”

「きみはもっとぼくの富や狂気に近づくべきだ」

“You won't find the peace of mind you're looking for-not any more

And since that's the case-put a smile on your face

You can love me-we can live above the law”

「きみはずっと探してきた心の平穏を見出すことなんてできないね-もう決して

まあ、そういうわけだから-にっこり笑って

ぼくを愛してよ-法の手の届かない所で生きて行こうぜ」

このYouとmeは、誰のことだと思います? これは、どちらもグリーン自身のこと、言い換えれば彼の中の二面性に言及しているのです。つまり彼の中の二人の相反する人格ですね。ですから、この歌詞はDevil Green(悪魔的人格)からSaint Green(聖人的人格)への、道徳的堕落のお誘いの歌なのです。誰しも自分の思うように生きたい、自分を最優先させたいという自然な気持ちを持っているものではないでしょうか。けれどもそれに対して道徳的、倫理的な観点から自らを抑えながら生きている。グリーンの場合、かつては共産主義やパンクに傾倒するほどでしたから、自分を抑えるのみならず、それ以上に社会の不条理を認識し、その変革を希求していたという明らかに聖人的側面をも内側に内在している人です。だからこそ、そうした自分に対して、真実の愛はそういうものではないのだから、まず自らを重んじて生きなくてはいけないよ、と片側の内在が主張し、変節を促しているということなのでしょう。

こうした彼自身の過去の経緯があるからこそ、「かつてはこの野獣の心にも美徳というものがあった」と道徳的に堕落した人格が歌い、未だに正当性を求めようとする人格に「もう待っても心に平穏が戻ることなどないの」だから、「私の富と狂気に歩み寄りたまえ」と誘い、最後に「法の手の届かない所で生きて行こうぜ」と落ち着くことになるのです。法の手の届かないところ、つまり倫理、道徳という概念から離脱した場所、ということですね。

ファウストにも見られるように、「心の中で囁く悪魔」というのは西洋文化圏において、理想の人間像を堕落させる存在として不可欠なテーマでもあります。つまり天使と悪魔は西洋倫理哲学の世界において、いつでもワンセットになっているものなんですね。

次にこの一節、

Bam Salute and when the work is over what can baby do?

But undermine and overthrow the cheatin' of the chosen few

これもねえ...。一応説明しときますか。

ここで出て来るworkこれは、言ってみれば彼自身の「work(課題)」に対する答え、つまり哲学的最終結論が今や出ているからこそ、「課題が終わった」と言っているんだと思います。そしてじゃあ、どうしようか(what can baby do)? どうするつもりなのかが次の行で語られているんですが、

undermineには「土台を崩す、(急激な変化に向かって)徐々に害する(そこなう)、知らないうちに衰えさせる(弱らせる、弱体化する)、間接的な(ひそかな、卑劣な)手段で攻撃する、ひそかに転覆させようとする」

ovdrthrowには「(権力の座から)弾き降ろす・打倒する、ひっくり返す、転覆させる」

このような意味がそれぞれあります。そしてfewは冠詞がついてthe fewとなると、「少数、少数派、選ばれた人たち」の意味になり、だから直前にchosen(選ばれた)という形容が用いられているわけです。cheatは言うまでもなく「だます、欺く」、名詞として用いられる場合は「ずるいやつ、サギ師、ペテン師、かたり、ごまかし」。

そうすると直訳でも「選ばれた人たちのペテンをひそかな手段で攻撃し、転覆させる」、つまりこの歌詞の作者はこれからそういうことをする以外にはないじゃないか、と思ってることが明らかになるわけです。このundermine の前のButは接続詞ではなく前置詞で、「〜の他には、〜以外は」という意味ですから、彼にとって最終結論が出た今となっては、「選ばれた人たちのペテンをひそかな手段で攻撃し、転覆させる他に」何をやることがあるんだよ、と、自分に対して同意を求めているわけですね。言っときますが、これは意訳でも何でもなく、単なる直訳です。

ちなみにこの「少数の人たち」これは、自らの君臨、利権、支配のために「道徳」とか「倫理」の名のもとに、世の大勢の人たちをたぶらかしている大勢力、...ここまで言えば分かるでしょ? 元来、自由に幸福を求めて良いはずの人間を縛り付け、あまつさえ抑圧している存在。それを「密かに攻撃して」というのは、まあこういう歌詞を歌うみたいに、おおっぴらではないけれども、じわじわと侵食するようにその権力を脅かして、いずれは転覆させてやろうじゃないか、ということを、グリーンは実際にやってるんですから、それ以上何をかいわんや、ですわね。言行一致、このテの詩の作者は決して自分の現実の生き方と関係のない歌を歌ったりはしないものなのです。いわば本マジ。単なる歌詞じゃないのよ〜ん。だっかっら、カッコいいんじゃないですか。ね? 大の男が女のケツおっかけ回すような恋愛ソング(あーら、失礼、お下品でしたわね)しか歌えなくて、なーにーが、"フォーク"なんだよ、冗談もいーかげんにおし!!

では念のため、“BAM SALUTE”の全訳を以下に記します。

もちろんこれはあくまで私独自の解釈ですので、見方のひとつとしてお読み下さい。

 

**BAM SALUTE**

Bam Salute and all the right and reason now are out of reach

They ran away with beauty baby - out to Bop-A-Re-Bop beach

Bam Salute and when the work is over what can baby do?

But undermine and overthrow the cheatin' of the chosen few

Bop-A-Re-Bop beach now baby

 

BAM SALUTE-すべての正義も常識も、今ではもう手が届かない

美徳と一緒にBop-A-Re-Bopの岸の彼方へ逃げて行ってしまった

BAM SALUTE-課題が終わったら、いったい何が出来るんだろう

選ばれた少数の人たちのペテンの土台を崩し(間接的に攻撃し)

転覆させることの他に

Bop-A-Re-Bop beach now baby

 

Ch: Oh first and foremost - ooh you gotta get close

     To the money and the madness that are mine - at any time

     And last but not least - in the heart of the beast

     There's a beauty that was once upon a time - and long ago

 

*1)さてなにより一番大事なことは-お近づきになること

ぼくの富と狂気に-いつでもね

そして最後だけど重要なことは

この野獣の心にも、かつては美が宿っていたということさ-大昔だけどね

 

Bam Salute and all the just and proper you've been waiting for

Sailed away with virtue baby - out to Bop-A-Re-Bop shore

Bam Salute and now the judge and jury - you can lock away

And all your world's abandoned to - the wages for a working day

Bop-A-Re-Bop shore now baby

Ch: Oh first and foremost - ooh you gotta get close

     To the money and the madness that are mine - at any time

     And last but not least - in the heart of the beast

     There's a beauty that was once upon a time - and long ago

 

 

BAM SALUTE-きみが待っていたあらゆる正当性も妥当さも

美徳と一緒にBop-A-Re-Bopの岸の彼方へ走り去ってしまった

BAM SALUTE-さあ、審判員も陪審も-追い出してしまえよ

きみは任せてしまえばいい-その日得られるものに

Bop-A-Re-Bop shore now baby

<*1)繰り返し>

 

 

Ch: Oh the one thing I know - is that wherever you go

     You won't find the peace of mind you're looking for - not any more

     And since that's the case - put a smile on your face

     You can love me - we can live above the law

Ch: Oh first and foremost - ooh you gotta get close

     To the money and the madness that are mine - at any time

     And last but not least - in the heart of the beast

     There's a beauty that was once upon a time - and long ago

Rpt. Ch. to end.

 

そしてぼくにひとつわかること-きみはどこへ行こうとね

きみが求めている心の平穏など見出せっこないのさ-もう二度と

まあそういうわけだから-にっこり笑って

ぼくを愛してよ-法の手の届かない所で生きていこうぜ

<*1)繰り返し>

 

 

と、出来上がりましたところで、お次は問題のBrushed With Oil, Dusted With Powder、いってみましょうか?

2003.7.12.改稿

 

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