ROXY MUSIC 1974

 

数年前から作るぞ作るぞと言いながら、なかなかリリースすることが出来なかったROXY MUSIC のページなんですが、Magazine Workshop の更新スケジュールに入れてしまえば自動的に出来上がるだろうという予測のもと、とりあえず始めちゃうことにしました。なにしろ膨大なデータが手元にあるもんですから、これを整理するのかと思っただけで逃げ出したくなりますが、ぼちぼち頑張ってみたいと思います。

さて、「洋楽ファンのひとりごと」で一時期思いっきり騒いでおりましたので既にご存知の方もあるかと思いますけど、ROXY MUSICのリーダーであり、英国を代表するロック・アーティストのひとりであるプライアン・フェリー氏は、世間一般にどう思われているのであれ、私にとってはもうかけがえのない王サマのような方で、長年、師とも仰ぐ尊敬の的でもあるのです。

その作品があまりに素晴らしすぎ、ぶっ飛びすぎているので、一般にはその真髄はまだまだ正当評価されていず、どちらかと言えば彼のエンターティナーとか、スターとしての側面ばかりに注目が集まってしまうようですが、どれほどそっち方面へも才能を発揮されていようとも、フェリー氏自身が明言されているように、その本来の姿は純正アーティスト以外の何者でもありません。それゆえ、ROXY MUSICは、その結成当初からまさに「アーティスト集団」であり、その先進性が後の英国の音楽世界に与えた影響は計り知れないものがあります。

2004年に英国で出版されたDavid Buckley氏によるROXY の研究書"The thrill of it all"、これは約400ページに及ぶ大著なのですが、この中でも著者が指摘しているように「Roxy Music were Britain's first punk band. (ROXY MUSIC は英国初のパンクバンド)」であり、そのデヴューが1972年、つまり実際のパンクムーヴメントが巻き起こるよりも5年は早いことからも、彼らの存在の先進性が伺えるのではないかと思います。しかも、ROXY MUSIC は後のパンクが成し得たよりもその思想性において遥かに先進的であり、スタイル的には既にその先のNew Wave をも包含していたと言えるのです。

日本では英国における「パンク」というムーヴメントについて全く理解されていないので、これがどう重要なのか計りかねる方も多いかもしれません。しかし、このムーヴメントは社会性、思想性、哲学と音楽が深く結びつき、それが広く認識されたという点において、芸術史上でも大変意義のあることで、それは美術史においてはマルセル・デュシャンの出現が、一般に視覚的娯楽という要素が強かった美術を、明確な思想性を表現する媒体のひとつへと進化させたのとよく似ています。

もちろん、歴史的に言えば、60年代のフォーク、ロックにもその萌芽は見られ、更に遡って 黒人音楽として発祥したJAZZ も、決して社会的不条理と掛け離れたものだったわけではありません。フェリー氏にしても、一人の音楽ファンとして、そのような過去の音楽世界を生来のアーティスト気質でもって眺め、その中で育ってきた方ですから、そこからも大きな影響を受けてらっしゃいますし、それは彼が後に、そうした過去の音楽的遺産ともいうべき優れた作品を、独自の音楽性を交えてカヴァーするという、これまた当時の英国ロック界を仰天させた手法を生み出す元にもなっているでしょう。しかし、60年代まで、そうした音楽史の底流に潜んでいた思想性という要素が、70年代に入って明確に表出し、パンクにおいては音楽性と同時に思想性が重要な要素として突出してきたことは確かだと思います。

英国の現代音楽史においてROXY MUSIC の出現は、パンク、ニュー・ウエーヴと続くムーヴメントと表裏一体であるところの、所謂 "intellectual rock / pop" の流れの源泉のひとつであると言っても過言ではなく、それは例えば 初期Scritti Politti やThe JAMなどにも継承されてゆく伝統的な手法を既に内包していたのです。

ではなぜ、このようなことがROXY MUSICには可能だったのでしょうか。それはまず、なんと言ってもこのバンドの企画者であり、創造主とも言えるフェリー氏の経歴を見れば分かってくるのではないかと思います。

彼は、1945年9月、英国北部の Durham に生まれますが、幼い頃からアーティストを志し、後にニュー・キャッスル大学でファイン・アートを専攻するに至ります。特に、その初年度は英国ポップアートの父とも称されるリチャード・ハミルトン氏が同校の教壇に立っておられたことでもあり、その方面では最高の師に恵まれていたと言えます。このことからも分かるように、そもそも彼は美術方面に進むつもりで勉強してらしたんですね。しかし、同時に十代の頃から音楽ファンでもあり、大学に進む直前の夏休みには友人に頼まれてヴォーカリストのアルバイトをやったりもして、アマチュアとはいえ既に人に聞かせるレベルの歌も歌えたわけです。このバイトは彼にとって大変楽しいものだったらしく、大学に進んでからも始めの2年は"The Gas Board"というバンドを結成して、かなり音楽狂いというところもあったようですが、しかしまだ、この時点では完全に進路を変えるには至らず、大学をつつがなく卒業し、当時の若者の多くがそうだったように成功のチャンスを求めてロンドンに移り住みます。

で、この前後からフェリー氏は、美術よりも音楽の方が、と言うよりも、ロック・ミュージシャンという仕事が包含しているあらゆる要素が、自分の持っている様々な才能を余すところなく生かすには最適なんでは? と思い始めたみたいですね。それは単に音楽家というに留まらず、作詞、作曲から、バンドそのものの企画というオーガナイザーの仕事、元々の専門である美術的要素をプロモーションやジャケットデザインに生かせるということ、そしてもちろんシンガーとか、エンターティナーの素質、ついでに私に言わせればあの容姿もひっくるめてですが、それらを生かせるとしてたら、ロック・スターってのもいーんじゃないか、と彼が思ったのも全く不思議なことではありません。そして、恐ろしいことに音楽のみならず、それに付随するあらゆることを全部、一人でやってのける才能が彼にはあったのでした。これが実に類まれなことは、たいていのミュージシャンが音楽以外でそんな多彩な才能を持っちゃいない事実からも、お分かり頂けるかと思います。

しかも、ここで重要なのは、フェリー氏が音楽、美術のみならず、文学的才知にも大変恵まれている方だという事実で、その、これまた類まれな詩才が、そう広くは認識されていないながらも、ROXY MUSIC の作品における芸術性を密かに決定づける要素ともなっているという点です。実際、彼の書く歌詞なんてものは、あまりにも素晴らしい思想性と表裏を為しているがために、残念ながら一般に理解してもらえる確率が大変低く、1994年のArena 誌の特集で、著者のMark Edwards氏 がいみじくも書いたように、「Reading through a decade's worth of features on Ferry it's striking that not a single lyric is quoted or mentioned, when in fact, quietly and largely unrecognized, Ferry has turned into one of the finest rock lyricists around.(フェリーを特集した過去10年の記事を読み通してみても、一行の歌詞も引用、若しくは言及されていないことに驚かされる。実際、意識されず、全く認識されずにいるものの、彼はロック史において最もすばらしい作詞者の一人であるというのにだ。)」というような状態で、いきおい、どうしてもその華やかな外見やスタイルばかりが話題になってしまうということなのでしょう。

けれども、そのように芸術について専門的に学び、リチャード・ハミルトン氏のような大変すぐれた方に師事して、後にハミルトン氏が「Bryan Ferry - my greatest creation (ブライアン・フェリーは、私にとって最大の作品だ)」とも語っておられるような筋金入りの芸術家であるフェリー氏が、ROXY MUSICの結成にあたって選んだメンバーも、才能は才能を呼ぶというのか一人としてハンパな人材はないということは、ブライアン・イーノ、アンディ・マッケイ、ボール・トンプソン、フィル・マンザネラ、このオリジナル・メンバー全てが現在も英国のミュージックシーンで活躍してることからも明らかです。そのメンバー誰一人取っても一家言あるウルサがたのアーティスト集団であったROXY MUSICですから、その作品がハンパなものにはなりようがなかったのも当然でしょう。

ROXY MUSIC を聴いたことがないという方には、まずオススメしたいのは不朽の名作「AVALON」で、この作品を最後にROXYは1982年をもって事実上解散した状態になっていたのですが、2001年に一時的に再編されてツアーに出て以来、コンスタントにバンドとしても活動しており、最近は約20年ぶりにニュー・アルバムをものすべく、ぼちぼちやってるとゆーよーなウワサも聞こえて参ります。それには、かつてフェリー氏とのアーティストとしての意見の食い違いから脱退したブライアン・イーノも参加しているともいわれ、さて、どんな作品になるものか、これは洋楽ファンにはまことに楽しみな話題ではないでしょうか。

では、これまで私の集めたROXY関連のフォトやインタヴューを、世界中のファンの皆さまと共有すべくアップしてゆきたいと思いますので、ROXY MUSICの多岐に渡る魅力を知る手かがりとして頂ければ嬉しいです。

 

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2007.1.10.-1.11.